機動戦士ガンダムエクストリームバーサスマキシブーストONを無線LANで遊ぶことはそんなにも罪深いか?

専門学校を出て、ウェディングプランナーとして生計を立て始めてもう8年になり改めて感じることがだが、この仕事はつくづく予想外の出来事の連続だ。今日という日も例外ではない。昨日打ち合わせを終えあとは結婚式当日を残すのみとなった結婚45回目(いわゆるバツ44)の中年女性から、今日の朝突然「メインディッシュはカース・オブ・ドラゴンのカツレツでお願いしていたけど、出席者の全員がドラゴンアレルギーだということがわかったので、リヴァイアサンカルパッチョに変更して欲しい」と連絡があった。カース・オブ・ドラゴンの手配はもう終わっているし、今からではリヴァイアサンの調達が間に合わない。それに、リヴァイアサンは飛龍ではないが海龍とも言える存在なのでドラゴンアレルギーが出ないとも限らない。リヴァイアサンという代替案が適切でないという以上に、そもそも別案で進めるための時間が残されていなかったため、「キャンセル料云々の話ではなく、式が破綻してしまいます」という旨のメールを送るべく文面を吟味している間に、バツ死死(44)中年女性から連絡があった。「ドラゴンアレルギーとは言っても少し鼻毛が伸びやすくなる程度の軽症者ばかりらしいので、予定通りカース・オブ・ドラゴンで大丈夫です。」

実はこの時点で付き合いのある海龍漁師からリヴァイアサン必要数量確保可能という裏は取れていたのだが、CoD(カース・オブ・ドラゴン)のままでOKとの連絡を受け、漁師には「リヴァイアサンはやっぱり不要です」とキャンセルの連絡を入れた。漁師からは怒られた。

午前中に別の式に必要な備品類の手配をし、タイムテーブルを作成する予定だったのだが、カース・オブ・中年女性のせいで全く進んでいない。とはいえ、おれは仕事に対して一切のプライドも責任感もないので、空腹という人間の最も根源的な欲求を優先して、積み上がった仕事を放り出して昼下がりのオフィス街へ繰り出した。昼食の束の間に自由に自由を見出しているようではそれこそ労働への従属を容認しているようなものではないかと思い、あえて、あくまでこの時間は自由とは程遠い拘束の時間の一環であり快・不快の評価の対象でもなんでもないとおれは認識している、と思っているということを示すため、ビジネスマンという名の畜群が餌を求めて群がる監獄食堂こと大手牛丼チェーンに向かった。会社に身体の自由を、スマートフォンに精神の自由を捧げた奴隷の隙間で牛丼をオーダーする。ああ、五月蝿い。豚が牛丼を貪る音が、豚が耳につけているイヤホンの中で鳴っているであろう、アクリル板で仕切られた狭いブースで丼越しにチラチラ覗き見るスマホに映る海外ドラマと思しきものの音声が、五月蝿い。あまりに五月蝿い。こんな場所からはさっさと立ち去りたい。斜め前のカウンター席におじいさんが着席した。「牛丼をひとつください」おじいさんは丁寧に注文内容を述べたが、「ください」を言い終わるが早いか、若い店員が「オーダーはお手元のタッチパネルでお願いします」と、ぴしゃりと言い放った。おじいさんはどれがそのタッチパネルといわれているものなのかわからない。おれの目の前にあるタッチパネルは飛散して付着した牛丼の汁で汚れている。おじいさんはタッチパネルを探しているうちに正気を失い、気がつけば阪神甲子園駅の駅前にいた。試合が終わり駅に向かう人の流れの中にいた。おじいさんのすぐ前には中年のカップルが腕を組んで歩いていた。その中年女性のほうが、突然右斜め前の別の中年女性をはたいた。はたいた方の中年女性が大声をあげる。顔が真っ赤だ。真昼間だが、酔っ払っているのだろう。「こんなところで」までは聞き取れたがその後は聞き取ることが出来ない。彼女はそのまま、前を歩く学ラン姿の男子高校生のリュックを思い切り叩いたりしながら「こんなところで」と思しき大声を張り上げ続けて駅に向かってずんずん進んでいった。いよいよ改札の手前に差し掛かった時、私立の小学校と思しき制服を来た色白の男の子が泣いている声が聞こえた。呼吸が心配になる程に嗚咽している彼は、切符を入れることなくスタスタと自動改札を通り抜けた。後から駅員と思しき中年男性が続く。中年男性が「一体どうしたの」と言ったが、駅長室の鍵を開けたのは小学生の方だ。もしかしたら、小学生だと思っていたほうが駅長で、駅長だった方が小学生であり、泣いていた方が中年男性で、「一体どうしたの」と言ったのが小学生だったのかもしれない。電車車内の床には3割ほど水が入った富士山の天然水のペットボトルが転がっており、私は「もしかしたらこれは人間の腕の一部なのかもしれない。」と思った。人間の腕の一部なのかもしれないそれは、車内を縦横無尽に転がり、関係のない人たちの足元を行き来した。もしかしたら、関係のないのは私だけで、私以外は皆関係があるのかもしれない。結婚式場に戻ると、社労士 あけ美様(社労士は苗字。実際には社労士ではないし、日本人でもない。存在もしていない。)の披露宴の最後の食事のかやく御飯に、鶏肉と間違えてオラクルのデータベースを入れてしまったことについて、上司にこっぴどく叱られた。その後、同じく鶏肉と間違えてオラクルのデータベースを入れてしまったことについて、サイボーグ009ジェロニモに似ている給食センターのおじさんにこっぴどく叱られた。ああ、酷い目に遭った、と打ちひしがれていると、今度は、すべてのSDGsを作ったとされる風俗狂いのルンペン(風俗に狂ったがためにルンペンになったのか、ルンペンになってから風俗に狂ったのかは定かではない。ただ、彼がSDGsを作ったということは揺るがない真実だ。)から、鶏肉と間違えてオラクルのデータベースを入れてしまったことについてこっぴどく叱られた。とはいえ、おれは仕事に対して一切のプライドも責任感もないので、空腹という人間の最も根源的な欲求を優先して、積み上がった仕事を放り出して昼下がりのオフィス街へ繰り出した。

お題「#この1年の変化